シャオミSU7がテスラ・モデルY超え!? 高性能&400万円切るEVが登場

シャオミEVが切り拓く新時代:中国からテスラへの挑戦状について解説

スマートフォンで成長を遂げた中国発のテック企業・シャオミが、今度は電気自動車(EV)業界に乗り込んできました。
自社開発のセダン「SU7」は予約開始直後から爆発的な反響を呼び、同社初のSUV「YU7」もまたテスラ・モデルYを意識したスペックで登場。
ガジェットのような使いやすさと洗練されたソフトウェア体験を武器に、シャオミは新たな“スマートモビリティ”の時代を切り拓こうとしています。

その一方で、自動運転技術に対する過信や死亡事故をきっかけとした政府の規制強化など、華やかな話題の裏に潜む課題も見え隠れします。

本記事では、シャオミEVの現状と可能性、そして自動車業界にもたらす影響について、多角的に掘り下げていきます。

目次

スマートフォンメーカーがEVに挑む時代背景

スマートフォンメーカーがEVに挑む時代背景について解説

スマートフォンやIoT製品で台頭してきた企業が、自動車業界へと本格参入する動きが加速しています。
その中でもシャオミは、自社の技術力とソフトウェア開発力を武器に、EVというまったく新しい領域へ果敢に乗り出しました。
2021年にEV参入を宣言して以来、驚異的なスピードで開発・生産体制を整え、わずか数年で市販モデルを世に送り出しています。

背景にあるのは、中国政府が掲げる「自動車の電動化・スマート化」への強力な支援と、国内市場の急成長です。
スマートフォン市場で培ったサプライチェーンやUI/UX設計のノウハウは、次世代車の開発にも応用可能であり、従来の自動車メーカーとは異なる視点からEVを再定義しようとしています。

特に注目すべきは、シャオミが単なる“新興EVメーカー”ではなく、“テック企業発のモビリティブランド”を志向している点です。
ハードウェアとソフトウェアを一体設計し、ユーザー体験を軸にした車両開発を行うスタイルは、スマートフォン時代の発想そのもの。
いわば、「家電化するEV」というビジョンを体現しようとしているのです。

このように、今やEVは自動車メーカーだけの領域ではありません。
シャオミの参入は、自動車産業そのものの構造を揺るがす転換点となるかもしれません。

シャオミSU7とYU7:高性能EVでテスラに挑む

シャオミSU7とYU7:高性能EVでテスラに挑むについて解説

シャオミがEV業界への本格参入を印象づけたのが、2024年に登場した初のセダン「SU7」です。
発表直後から話題をさらい、発売初日にはわずか27分で5万台、24時間で8万台以上の予約を獲得。
この驚異的な数字は、テスラをはじめとした競合EVメーカーにとっても脅威となりました。

SU7の魅力は、圧倒的なコストパフォーマンスにあります。
エントリーモデルであっても最高出力299馬力、航続距離700km超というスペックを備えながら、日本円で約400万円前後という価格帯。
最上位モデルはポルシェのタイカンと比較される性能をもちつつ、価格はその半額以下。
走行性能・内装・テクノロジーのいずれもが高水準でまとまっており、初めてEVを購入する層にとって非常に魅力的な選択肢となっています。

そして2025年には、同じプラットフォームを活かしたSUVモデル「YU7」の情報も公開され、こちらはテスラ・モデルYの対抗馬として注目を集めています。
YU7はより実用性の高いフォルムと広い室内空間を備え、ファミリー層や都市部のユーザーに訴求。
価格や航続距離などの詳細は今後の発表が待たれますが、シャオミの戦略から見て、再び“価格破壊”を狙ってくるのは間違いないでしょう。

SU7とYU7は、ただのEVではありません。
スマートフォンのように“選ばれやすいガジェット”として設計され、日常に自然と溶け込むデザインや機能が徹底されています。
それこそが、テスラとの差別化の鍵となるポイントです。

ソフトウェアとエコシステムで差をつける戦略

ソフトウェアとエコシステムで差をつける戦略について解説

シャオミがEV市場で異彩を放っているのは、単なる価格やスペックだけではありません。その最大の強みは、同社が長年培ってきた「ソフトウェア力」と「エコシステム戦略」にあります。

SU7をはじめとするシャオミのEVは、自社開発の車載OS「Xiaomi HyperOS」を搭載しています。このシステムは、スマートフォンやタブレット、スマート家電とシームレスに連携することが可能で、たとえばスマホで設定したルートを車に送ったり、車内から家庭のエアコンを操作することもできます。まさに“スマートホームが移動する”ような体験です。

また、シャオミは既存のユーザーコミュニティを活用し、ソフトウェアのアップデートや改善をスピーディに展開する体制を築いています。スマホと同様に、EVもOTA(Over The Air)アップデートで機能追加や性能向上が可能であり、車両の価値が時間とともに“劣化する”のではなく“進化していく”という感覚を提供しています。

さらに、ナビ、音声アシスタント、エンタメ、スマートキー機能などを一体化させた車内UX(ユーザー体験)は、他社のEVとは一線を画すものです。AppleやGoogleが自動車業界への進出を目指すなかで、すでにその領域を実現しているシャオミは、「ソフトウェア×クルマ」の融合をいち早く体現している企業とも言えるでしょう。

ハードウェアを売って終わりではなく、ソフトウェアの更新やサービスの利用を通じて、長期的にユーザーとの関係を深めていく。シャオミのEVは、まさに“ガジェット的クルマ”としての新しい価値観を打ち出しているのです。

死亡事故と広告規制:華やかさの裏にある影

死亡事故と広告規制:華やかさの裏にある影について解説

華々しく登場したシャオミのEVですが、その勢いの裏側では、業界全体が直面する課題も浮かび上がりつつあります。その象徴的な出来事が、2025年3月に発生したSU7による死亡事故でした。

この事故では、自動運転支援機能「Xiaomi Pilot(NOA)」が作動していたとされる中、車両がガードレールに激突。その後、車体から出火し、ドアが開かなかったとの指摘も出ています。事故の詳細は現在も調査中ですが、この件をきっかけに、中国政府はEVにおける広告や安全基準に対する姿勢を一気に厳格化しました。

具体的には、「自動運転」や「スマートドライビング」といった表現を広告で使うことが原則禁止に。さらに、車両の自動駐車機能(リモートパーキング)も一部制限され、ADAS(先進運転支援システム)のソフトウェア更新にも認証が求められるようになりました。

これらの規制強化は、シャオミだけでなく、他の新興EVメーカーにとってもインパクトの大きな動きです。技術の進化に伴い、「過信」や「誤解」を防ぐためのルール整備が追いついていないことが浮き彫りになったともいえるでしょう。

とはいえ、こうした規制は技術革新を止めるものではなく、むしろ次のフェーズに進むための“安全装置”ともいえます。シャオミ自身もこの状況を踏まえ、技術の透明性や安全性の確保に取り組む姿勢を強調し始めています。

EVがスマート化する時代、必要なのは“便利さ”と“安心”の両立。シャオミが目指す未来にも、そのバランスが今後ますます求められていくでしょう。

中国EV市場の最前線:競争と加速のリアル

中国EV市場の最前線:競争と加速のリアルについて解説

シャオミがEV事業に乗り出した背景には、中国国内の急速なEV普及と、熾烈な競争環境があります。2020年代に入ってから中国は、世界最大のEV市場として成長を続け、既に新車販売に占めるEVの割合は3割近くに達しています。これは単なるブームではなく、国家レベルでの産業政策と市場ニーズが合致した結果といえるでしょう。

この巨大市場でひしめくのは、BYDやNIO、小鵬汽車(Xpeng)など、すでに実績を築いてきた中国発のEVメーカーたち。中でもBYDは、販売台数でテスラを凌駕する勢いを見せており、低価格帯から高級モデルまで幅広いラインナップを揃えています。一方のNIOやXpengは、ラグジュアリー性や先進的な自動運転技術で差別化を図っています。

そこに満を持して参入したのが、シャオミです。これまでのメーカーが“自動車出身”であるのに対し、シャオミは“テック企業発”という新しい視点を持ち込んだことで、他社とは異なる立ち位置を確立しようとしています。例えば、価格や性能の競争ではなく、UX(ユーザー体験)やエコシステムでの優位性を前面に出す戦略は、これまでのEV市場とは一線を画します。

また、シャオミの登場によって、EVが「次のスマート家電」として一般ユーザーにより身近な存在となったのも注目すべき点です。既存ユーザーとのブランド接点があること、販売網やマーケティング手法がすでに成熟していることも、他の新興メーカーにはない強みとなっています。

競争が激化する中国市場で、シャオミがどこまでシェアを伸ばせるかは未知数です。しかし少なくとも、同社の参入がEV業界全体を再定義する“刺激”となったことは間違いありません。

世界市場を見据えたシャオミのEV戦略

世界市場を見据えたシャオミのEV戦略について解説

中国国内で確かな存在感を示し始めたシャオミEVですが、その視線の先には明確に“世界市場”があります。スマートフォン事業でグローバルに展開してきた実績を持つ同社にとって、EVでも国境を越えることは戦略の中核といえるでしょう。

まず注目すべきは、シャオミの製品思想です。スマートフォンや家電製品と同様に、“高性能・低価格・使いやすさ”をベースとしたモノづくりは、グローバル市場でも競争力を発揮しやすい構造です。特に東南アジアや中東、南米といった新興国では、手頃な価格帯のEVに対するニーズが高く、シャオミの戦略と合致しています。

一方で、欧州や日本、北米など、成熟市場への展開には慎重さが求められます。安全基準や認証制度、アフターサービスの体制構築、ブランド力の確立など、越えるべきハードルは多く、単に価格と性能だけで勝負するのは難しいのが現実です。特に欧州ではCO₂排出規制の強化や、地産地消型のサプライチェーン要求などもあり、中国メーカーにとっては簡単な市場ではありません。

また、テスラ、フォルクスワーゲン、BMWといった既存勢力がしのぎを削る中で、後発のシャオミがどのように“自分たちらしさ”を打ち出していけるかもカギとなります。現時点では海外展開に関する公式なアナウンスは限定的ですが、水面下では各国への販売体制や法規対応の準備が進んでいると見られています。

今後、もしシャオミがグローバル市場で成果を上げれば、それは単なるEVの輸出ではなく、「中国発のスマートモビリティ・プラットフォーム」としての地位確立を意味します。その可能性を見据えた動きが、すでに始まっているのです。

EVの家電化時代を象徴する存在へ

EVの家電化時代を象徴する存在へ

シャオミのEVは、これまでの“クルマ”という概念を塗り替えつつあります。単なる移動手段ではなく、スマートフォンやスマート家電のように、生活とシームレスにつながる存在へ。こうした変化の先にあるのが、「EVの家電化」という新しい潮流です。

ガソリン車の時代には、自動車は専門性の高い製品でした。エンジン、変速機、複雑な制御系。そこには100年以上かけて積み上げられた職人の技と重厚な産業構造がありました。しかしEVは、ソフトウェアで制御され、構造もシンプル。アップデートによって機能が追加されるなど、まるでスマホのような進化を遂げています。

シャオミは、その潮流の最前線にいる存在です。スマート家電を“触ってきた”ユーザーが、そのままシャオミEVにも親しみを持つ──そんな体験設計がなされていることが、同社の戦略の巧みさを物語っています。単に走るクルマではなく、持つこと・使うこと自体が“快適で楽しい”という感覚を生むモビリティ。それこそが、シャオミが提示している新しいEVのかたちです。

もちろん、その過程には課題もあります。安全性、制度、規制、ブランド力。あらゆる面で、これまでの“家電”とは異なる難しさを伴います。しかし、それでもなおシャオミの動きは、業界にとって刺激的な存在であり続けるでしょう。

EVが家電のように日常に溶け込む時代。シャオミは、その象徴的な存在として、今まさにクルマの未来像を描いています。これから5年、10年後、私たちが乗っているクルマが“デバイス”と呼ばれるようになる日が来たとき、その変化の起点にはきっと、シャオミの名が刻まれているはずです。

目次